髙島研究室HP。
研究紹介RESEARCH
太古の地球環境復元を目指した熱水環境の地球生命科学的研究
地球が誕生して約46億年になります．最初の約40億年間を先カンブリア紀と呼ばれ，地球上に海洋ができ，生命が誕生した重要な時期です．しかし，当時の環境についてはたくさん議論されていますが，まだ明らかになっていません．先カンブリア紀の環境情報を提供してくれるものとして，海洋から直接沈殿した主に鉄酸化物で構成される縞状鉄鉱層（約38-18億年前）と炭酸カルシウムと微生物を主体とするストロマトライト（約27-5億年前）があります．残念ながら，これらの堆積物は数十億年という長い年月の間に変質しており，初期情報を得ることは困難です．そこで，目を付けたのは現在の温泉環境に見られる”湯の花”です．湯の花の中には縞状鉄鉱層やストロマトライトと成分や組織が類似しているものがあります．湯の花のできる環境やでき方を多様な手法を持ちて調べることで，先カンブリア紀の環境復元が可能ではないかと考え，研究を進めています．
具体的な研究方法
●野外調査
調査地に行き，簡単な測量を行い周辺の地形図を書きます．温泉周辺の様子をじっくりと観察し ，ノートに記載します．サンプル採集位置を決定し，水温やpHなどのパラメーターを測定します．その後，水試料や堆積物試料を各地点で採集します．調査終了後には，疲れを癒すため，入浴することがあります．
●水分析
持ち帰った試料は多様な分析に使用されます．イオンクロマトグラフィーや蛍光X線分析(XRF)などを用いて，水の溶存成分を測定します．これらの分析により，水の中にどの成分がどれだけ入っているか知ることができます．また，質量分析計（右図：九州大学比較社会文化研究院 狩野研究室に設置）では，酸素安定同位体比や炭素安定同位体比を測定します．これは水の起源や二酸化炭素の起源を特定することができます．残念ながら，当研究室や本学部には大型分析機器は少ないので，他大学の協力を得て分析を行っています．
●堆積物の観察
堆積物は分析方法に合わせて保存します．まずは，堆積物を薄く研磨し，薄片と呼ばれるものを作成して，偏光顕微鏡で観察します．立体的に観察したい場合は電子顕微鏡(SEM)を使用します．これらは，肉眼では決して見ることができなミクロな世界を知ることができます．また，堆積物がどのような鉱物でできているかを特定するために， X線回折(XRD)で分析します．
●微生物の観察
堆積物には微生物が生息しています．光学顕微鏡や蛍光顕微鏡を用いて，微生物を観察します．右図は蛍光顕微鏡写真で，緑色は鉱物，赤色の発光は微生物を表します．そうすると，微生物が堆積物のどこに分布し，どのような代謝をする微生物か，おおよその見当がつきます．さらに，微生物種を特定するためには，遺伝子解析を行います．卒業研究
当研究室では，地球科学をベースに温泉環境の研究を進めているほかに，佐賀県の環境を知るべく河川や酸性雨の研究も卒業研究としておこなっています．卒業研究では専門知識や技術を身に付けるはもちろんのこと，企画力，論理的思考力，文章能力およびプレゼンテーション能力の向上を目指しています．2015年度
・濃縮海水から析出した塩の特徴
・身近な水道水の化学分析
2014年度
・佐賀市における降雨状況の季節変化
2013年度
・佐賀県の蛇紋岩及び周辺河川の地球化学的研究・気象条件による降水の性質の変化と粒子状物質の観察
・スマトラ島に分布するトラバーチンの地球生命科学的研究
2012年度
・水質の季節変化から読み解くMnを含む鉱泉水の成因・酸性温泉の流路における微生物群衆の空間的変化
・塩田川・鹿島川の流域地質と河川水の溶存成分の相関
2011年度
・平松鉱泉の水質とMn沈殿物の分析
2010年度
・霧島温泉郷硫黄谷温泉における微生物代謝に関連した水質の流路変化